施設が悩む離職問題
施設が悩む離職問題
公共財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働実態調査」によると、介護業界において人材が不足する原因の1位は圧倒的に「採用が困難である」でしたが、それに次いで「離職率が高い(定着率が低い)」をあげています。
スキルのある人が集まらないことに加えて、スキルのある人が辞めてしまう、つまり、中核となる職員の離職も介護事業経営者を悩ます要因のひとつです。
同じ離職といっても、仕事に就いてすぐに辞める人が多ければ、介護という職業ではなく、職場自体に問題があるといえるでしょう。
離職問題の解決策
離職問題を解決する「これだ!」という名案はありません。
しかし、まず職員が辞めたいという原因は何かを考えることです。
原因がわかれば、それを一つひとつ丁寧に改善するしかありません。
離職の理由については、先ほどの「介護労働実態調査」の平成29年度版で統計をとっています。
それによると、もっとも多かったのが「職場の人間関係に問題があったため」で20%、2番目が「結婚・出産・妊娠・育児のため」で18.3%、3番目が「理念や運営に不満があったため」で17.8%となりました。
「他によい仕事・職場があったため」や「収入が少なかったため」という理由をあげる人はいましたが、意外にも上位にきたのは、人間関係や理念、運営であり、待遇面より職場の環境を重視していることがわかります。
職員の悩みとして、人間関係の中でも「同僚や先輩とうまくいかない」「介護者との関係が悪く、周囲のサポートがない」「ライフスタイルの変化に応じた働き方をさせてくれない」「上司が自分の主張を聞いてくれない」などがあげられており、これらが職員のモチベーションの低下を招くのでしょう。
介護の現場ではさまざまな職種の人たちが仕事をしており、そこには自然と“資格”によって一種のヒエラルキーができあがってしまっているのです。
それは、医師を頂点にして、看護師、療法士、そして、介護職の順となり、介護職の中でも、介護福祉士がトップになっています。
さらには、職員の8割が女性で、独特の人間関係があり、中には、“お局様”に気に入られないと、うまく仕事が進まないという職場もあるようです。
ベテランが牛耳っていると、独特のしきたりやその人独自の方法に従わなければならず、それがその職場の風土となり、風通しは極めて悪くなります。
ベテランの仕事の仕方は、現在では古いやり方となっていることも多く、最新の介護技術を専門学校などで学んできた若い人たちにとっては、相容れられるものではありません。
経験の浅い人や若い人が壁にぶつかったり悩んだりした場合、相談に乗って、的確なアドバイスができる先輩やリーダーが職場にいることも重要です。
ひとりの優秀なリーダーが全体を引っ張っていく時代ではありません。
ひとりの人間が職場を支配しないように、職場全体もしくはチーム単位で情報や技術を共有し、チームで新人や若い人を指導する仕組みを施設において作ったほうがいいでしょう。
これとは逆に、数人の入居者をひとつのユニットとして同じメンバーで生活し、専任の職員がケアを担当するユニットケアという考え方があります。
これなら一人の職員への負担が軽減されるだけでなく、職員の間のストレスも抑えることが可能です。
介護事業を経営する人には使命感をもって仕事をしている人が多く、施設自体にも介護における理念や理想があるはずです。
それを職員に理解してもらうことは、円滑に仕事を進めていくうえでも重要ですが、決して押し付けてはいけません。
経営者や事務長などは、日ごろから職員と密接なコミュニケーションをとり、職員が抱える悩みや不満を把握、理解し、解消するように普段から努めることです。
現代の優秀な経営者とは、職員が働きやすい職場環境を提供できる人であり、職員のモチベーションを高めることができる人といってもいいでしょう。
離職率の問題を解決できるのは、経営者であるあなたの問題なのです。