介護を理由にした離職と経済損失
介護を理由にした離職と経済損失
介護や看護のために離職する“介護離職”が2017年には約9万人となり、2010年代になっておよそ2倍に増えました。
介護業界自体は、介護職員の“離職”という問題を抱えていますが、皮肉なことに一般企業では、家族の介護を理由とした職員の離職が悩みのタネになっているのです。
しかも、これに少子高齢化による生産者人口の減少、つまり働き手の減少が追い打ちをかけていることになります。
これも「介護」をキーワードとしたときの我が国の抱える問題点なのです。
毎年約10万人が介護を理由に離職
総務省の2017年の就業構造基本調査によると、過去1年間に介護や看護を理由に離職した人は約9万9千人に上り、そのうち約4分の3が女性となっています。
さらに、全国就業実態パネル調査2017(リクルートワークス研究所)によると、2012年から2016年の5年間に介護を理由に離職した人は推定約54.1万人に上るという結果が出ました。
内訳は40代が17.9%、50代が38.3%、60代が16.2%と、40代以上が多くを占めています。
全体の3割が男性でした。
また、東京商工リサーチが全国の企業を対象に実施した「介護離職」に関するアンケート調査(2019年)によると、過去1年間に介護離職が発生した企業は約1割に達することがわかりました。
一方で、全体の約4割の企業が「仕事」と「介護」の両立支援への取り組みや何らかの体制整備に動いています。
それでも将来的に介護離職者が増えると考える企業は約7割に上りました。
同時に、社員の高齢化、特別養護老人ホームの空き室不足など、「介護離職」に不安を抱く企業は少なくないことが浮き彫りになりました。
政府は「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年)、「働き方改革実行計画」(2017年)において、子育て・介護と仕事の両立を一つの重点テーマと位置づけ、2020年までに「介護施設やサービスが利用できないことを理由とする介護離職をなくす」という目標を掲げているものの、未だ十分な効果は現れていません。
政府が提唱する「働き方改革」とは、これも政府が推進する一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジであり、多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環の実現を目指しています。
経済的損失6500億。いつまで続くかわからない介護
2025年には団塊世代が75歳以上となり、家族の介護に直面する人はさらに増える見通しです。
そして、その10年後となる2035年には団塊世代が85歳以上となり、さらに介護ニーズが増大することが予想されます。
経済産業省では介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は1年当たり約6500億円と算出しました。
経済損失は、介護離職者数を10万人とした場合、それにより失われる所得は、平均所得を270万円とすると全体で2700億円となります。
企業は3800億円もの利益を失うことを覚悟しなければなりません。
介護の一番大きな特徴は、課題がいつまで続くかわからず、先が見えないことです。
「生命保険に関する全国実態調査」(2018)によれば、介護期間の平均は4年7カ月であり、10年以上に及ぶ例も全体の14.5%に達します。
先が見えない介護は社員の職場復帰を困難にさせており、この状況は今後さらに増加していくでしょう。
もちろん、放置しておいていいはずはなく、解決策を見い出さなければなりません。
介護ビジネスの視点から見た場合、介護離職を生じさせないための代行サービスや、ICTを活用した臨機応変なサービス出動など、新たなサービスが生まれる可能性があります。