制度改正に左右されてきた介護ビジネス
制度改正に左右されてきた介護ビジネス
介護ビジネスは、2000年にスタートした介護保険制度に則って運営されていることはすでに説明してきました。
よって、介護ビジネスは“制度ビジネス”とも呼ばれています。
利用者である要介護者が安価で安心して介護サービスを受けられるように、利用者自身も保険料を支払ってこの制度を支えているわけです。
だから、事業者は自由に介護サービスの料金を決めることはできません。
そんなことをいっても、入居費が数千万円もする高額の老人ホームがあるではないかと思う人もいるでしょう。
ただし、これには介護保険は適用されません。
ひとりの人が贅沢な暮らしをするために国民が支払った保険料を使うわけにはいかないからです。
美容整形を思い浮かべてください。
美容整形は、人の健康や生き死にとは関係ありません。
よって、健康保険が適用されません。
これを自由診療と呼ぶわけです。
介護保険の保険者は市町村ですが、税金が投入されていることもあり、介護報酬は国が決めています。
そこで、制度が変わる、つまり介護報酬の規定が変われば、事業者の収益も変わるのが実情です。
2000年に介護保険制度が実施されて以来、これまで介護保険制度は5年ごと、介護報酬制度は3年ごとに改正されてきました。
中でも、2015年に実施された介護保険制度の改正は、介護サービス事業者の収益に大きな影響を与えました。
この改正の特徴は、介護報酬が2.27パーセント引き下げられたことです。
このような動きには、日本の国家予算に占める社会保障費の増大が大きく影響しています。
さらには、要支援の人が介護保険の適用から除外され、自治体の地域支援事業に変更されました。
事業者は受け取れる介護報酬が低下するわけですから、自ずと収益も減ることになります。
収益を回復するには、利用者の数を増やすか、事業者が抱える経費を節減するか、そのいずれかしかありません。
それまでギリギリで経営をしてきた介護サービス事業者の中には倒産に追い込まれた事業者もありました。
事実、この年の介護サービス事業所の倒産は過去最多となりました。
これをうけて2018年の介護保険制度改正では、介護サービス事業者の厳しい経営状況を考慮して、介護報酬はプラス0.54パーセントとなりました。
ところが、介護報酬の増減はサービスごとに決められていますから、すべてがアップしたわけではありませんでした。
通所介護については実質マイナス改定となり、通所介護をサービスメニューに入れている事業者にとっては大きな痛手となりました。
一方、新しく「個別機能訓練加算」などの加算措置も導入されました。
ただし、要件を満たさない事業者にとって恩恵にはなりません。
このように、介護報酬は制度改正のたびに介護ビジネス事業者の収益は増減を繰り返してきました。
その都度、介護ビジネス事業者は一喜一憂しなければなりません。
もちろん、それを機に収益増を成し遂げる事業者も少なくありません。
事業者は、制度の改正から今後の国の方向性を予測し、臨機応変に対応できる力を必要としています。