介護施設が悩む認知症ケア
介護施設が悩む認知症ケア
介護施設を経営していると、さまざまな問題にぶつかります。
悩みの種はつきませんが、よくいわれているのが人材不足です。
しかし、単に職員の数が足りていればいいのではありません。
そうではなく、施設の求める人材がなかなか集まらないのです。
認知症ケアの専門家とは
中でも、認知症ケアのスキルをもつ人はそれほど多くはありません。
認知症を抱える高齢者は扱い方を慎重にしなければ、本人だけでなく、施設の運営にとっても大きなマイナスとなります。
認知症の高齢者は、徘徊をはじめとして、施設の近所にある商店などでの万引きや最悪の場合、行方不明になることもあり、もし、扱い方を間違えれば、さまざまなトラブルのもととなりかねません。
しっかりとしたケアをしていれば、穏やかに過ごせるようになり、問題行動を起こす頻度も少なくなります。
昔は高齢者が“ボケる”と、家族はできるだけ人と会わさないように、酷い例になると、座敷牢のようなところへ閉じ込めておくようなこともありました。
しかし、今はまったく異なり、できないことを問題にしたり責めたりするのではなく、できることを伸ばすことに力点を置いたケアをしています。
こういったケアを実現させるために、最近、介護や福祉、医療などの分野で働く人にとって活用されているのがICFです。
国際機能生活分類と訳されるICFとは、人間の生活機能と障害についての分類法として、さまざまな専門分野や異なる立場の人たちの共通理解のための国際的な共通言語の役割をもっています。
これまでの介護福祉士国家試験でも出題されており、介護認定時のアセスメントやケアプランの作成時にも活用されているのです。
「できることを伸ばす」ために、要介護者の要望をもとにして、個人因子となる経歴や職歴、得意な分野や特技などから、要介護者自身が行なう最適な作業、それに必要なケアを導き出し、最終的には、要介護者の“より良い状態”を目指します。
この種のケアのプロセスを考えるのにもICFは欠かせません。
具体的な認知症ケアとしては、過去に携わっていた仕事を再現させることで元気を出させるといったことが行なわれています。
また、夕方になると、「家に帰る」と言い出すということも認知症患者にはよくみられる例です。
そのようなときは、無下に否定せず、つき添っていったん施設の外へ出て、それから再び施設に戻るようにするといったケアも行なわれています。
原因を追究する、「なぜ」を考えることも新たなケアのひとつです。
認知症患者には、弄便(ろうべん)を繰り返すことがあります。
弄便とは、認知症患者が便を手でいじったり、自分の体や寝具、壁などに擦りつけたりする行為のことです。
患者自身が便を認識できなかったり、誤認したりしている場合や、おむつの中に排便した後の不快感を解消しようとしている場合など、原因はさまざまありますが、これも原因を追究して、それに適した対策をとるようにします。
このように現在の認知症ケアは、「できない」ことから「できる」ことへと視点を変えることが主流となっており、それがICFを活用するうえでもっとも重要な考え方なのです。
ちなみに、ICFは2001年にWHO(世界保健機関)によって採択されました。
一方、我が国の政府としても介護における認知症ケアの重要性を理解しており、令和3年度の介護報酬改定において運用基準が見直され、2024年度から「認知症介護基礎研修」の受講が義務づけられるようになりました。
この研修は無資格の介護職員を対象にしてeラーニングで実施され、受講時間は全部で6時間です。
2021年度から2023年度まではいちおう努力義務となっています。