SOMPOホールディングスの大幅賃上げのニュースを考える
SOMPOホールディングスの大幅賃上げのニュースを考える
読売新聞オンラインでは、「SOMPOホールディングスは、傘下にある介護事業会社の中核職員約1000人を対象として、2022年度に年収ベースで100万円程度引き上げる方針を固めた。高齢化で高まる介護ニーズに対して深刻化する人手不足に対応する」と伝えました。
今回は、このニュースに関して私なりの考察をしたいと思います。
まず、このニュースを聞いた第一印象ですが、SOMPOケアは、業界のオピニオンリーダーとして、株式市場に対してそして介護職員の採用をさらに強化する手段としてPRしたのだと思いました。
いうまでもなく介護業界の最大の課題は介護人材不足です。
2020年7月9日に厚生労働省は介護人材不足の必要数を報道発表しました。
それによると、介護職員は2040年度までに69万人増が必要とのことです。
介護事業者が介護事業を円滑に運営し収益を拡大していくためには介護職員の採用が欠かせません。
SOMPOケアは上場している会社であるゆえ、市場に対して何らかの態度を示すことが必要だったのかもしれません。
そもそもSOMPOケアは、もともと保険事業がメインでしたが、介護ヘルスケア事業にも力を入れており、特にM&Aを積極的に展開してきました。
売上規模でいうと業界で第2位となっています。
業界トップであったニチイ学館が上場廃止をした今、SOMPOケアは業界のリーディングカンパニーとしてその一挙手一投足が注目される企業となりました。
さらに先行投資的なものとして介護ロボットや外国人介護人材、認知症ケアなどに対しても様々な団体と提携をしています。
認知症に関しては本業の認知症保険などの開発もしており、ケア事業は、グループ全体の販売戦略の一環としても考えられるでしょう。
そのSOMPOケアが賃上げしてでも人材を確保したい理由は何でしょうか。
公益財団法人介護労働安定センターによると、介護人材の離職の理由は以下の通りです。
男女間で異なる退職理由ですが、男性においては自分の将来の見込みがたたなかったためという理由が30%を占めています。
ここからわかることは、男性は賃金を求め、女性は休み方など柔軟な働き方を求めていることがうかがえます。
さらに、現在転職した人が新しい職場に来たときの理由として「賃金などの水準が適当だから」という回答も10%弱ありました。
そして、この部分に関しては事業所が取り組むべき項目としてあげられています。
以上のようなことからSOMPOケアは、業界のリーディングカンパニーとして市場に対して、株主に対して、そして、新たに雇用する介護職員のために賃金の向上を示したのでしょう。
今後、法人を背負っていく男性職員の採用と育成も視野に入っているはずです。
賃上げには原資が必要となります。
SOMPOケアでは、それを「今後の事業拡大で収益力を高めることで捻出する」とのことです
介護保険事業は国の決めた公定価格である(介護報酬)で決まっています。
ここから介護労働者の賃金などを捻出するわけです。
ひとつの大きなポイントとして、事業規模が拡大すればするほどその経費が下がるという「規模の経済性」の考え方があります。
つまり事業規模が拡大すればするほど、例えば、購入に関わる備品の値下げや、合理化ができるわけです。
介護事業においてもこの規模の経済性が合致するため、事業規模を拡大すればするほど経費が下がります。
この下がった経費の分を人件費に充当すると考えていいでしょう。
SOMPOケアの競合会社は、上場している介護系会社において事業規模から考えると、ベネッセホールディングスや、上場廃止をしたニチイ学館などです。
この3社は介護サービスの売上高で1000億円を超えています。
他社も介護職員採用を円滑にするために、賃上げに動くことも十分考えられますが、前述した規模の経済性が発揮できる会社でないと厳しいのではないでしょうか。
最後にこのニュースが業界に与える影響ですが、このニュースは大々的に全国紙にも企業名が取り上げられ、人材の吸引力が高まる事は間違いありません。
前述した通り、賃金を求めて就職する介護労働者は、男性に多い傾向があります。
全介護職員の約8割は女性で占められている現場であるため、今後、男性職員も増えてくるであろう将来の介護事業を見据えた事業展開といえるのではないでしょうか。